えまのんの雑記

アニメやゲームの感想を書きます。

掛け布団は「着る」ものなのか?

きっかけ

 Twitterで布団に続く動詞を使おうとしたときに、馴染みがある「着る」という動詞に違和感を感じたのがきっかけ。衣類じゃないんだし、「着る」のはおかしくないか?

 

いくつかの方法を使って布団に続く動詞について調べてみた。

 

ggる

「布団 着る」で検索してみると他にも疑問に思った人がいるらしく、複数のサイトがヒットした。

そのうちの一つ

「布団を着る」は標準語、方言? | 趣味・教育・教養 | 発言小町

 

どうやら、布団を「着る」という表現は方言の一種らしい。比較的広範囲に点在しているようなので使われている地域に関する言及は避けておく。

では布団を「着ない」地域に住んでいる人たちは、一体どうしているんだろうという疑問が浮上する。冬なんかは風邪をひいてしまうのではないかと心配になる。

疑問に思ったので「着る」以外にはどんな言葉が使われているのか調べてみることにする。

「掛ける」

なるほど。確かに体の上に乗せる布団のことを「掛け布団」と呼ぶから、この表現には納得せざるを得ない。私の地域でも他人にしてあげるときに限るが、「布団を掛ける」という表現を用いる。

「被る」

「かぶ-る」と読む。「こうむ-る」ではない。私のイメージでは布団を「被る」というと、頭まですっぽり布団で覆っている状態をイメージする。おおよそそれは寝るために利用される表現ではなく、悲しいことがあったときに誰にも見られないように涙を流すような場合に用いられる印象だ。

 

「着る」以外だとこの二つが一般的らしく、中でも掛け布団にも使われている「掛ける」という動詞が最大勢力らしい。

 

辞書で引く

レポートや論文において上記のような掲示板を参考文献とするのは不適当だと習ったので、辞書を使って調べてみることにした。

goo辞書

ふ‐とん【布団/×蒲団】 の解説
《「ふ(蒲)」「とん(団)」は唐音。「布」は「蒲」に当てた字》

1 布地を縫い合わせ、中に綿・羽毛などを入れた寝具。敷き布団・掛け布団など。「―を敷く」「―を上げる」「煎餅 (せんべい) ―」《季 冬》「―着て寝たる姿や東山/嵐雪」

2 座禅などで座るときに用いる蒲 (がま) の葉で編んだ円形のもの。

[補説]書名別項。→蒲団

布団/蒲団(ふとん)の意味 - goo国語辞書

 

かけ‐ぶとん【掛(け)布団】 の解説
寝るとき、からだの上にかける布団。かけぶすま。《季 冬》

掛(け)布団(かけぶとん)の意味 - goo国語辞書

 

布団の方では現代語の用法は出てこなかったが、掛け布団で調べるとヒットした。goo辞書は「掛ける」一派のようだ。しかしネットで無料で使える辞書というのはどうも信頼できない(失礼)。やはり歴史と権威のある辞書を利用すべきではないか。そう、広辞苑の出番だ。

広辞苑(第六版)

 ふ-とん[蒲団・布団]

(「蒲」「団」はともに唐音)①蒲(がま)の葉で編み、座禅などに用いる円座。ほたん。正法眼蔵座禅儀「座禅のとき、袈裟をかくべし。―をしくべし。」②(「布団」は当て字)綿・藁またはバンヤ・羽毛などを布地でくるみ、座りまたは寝るときに敷いたり掛けたりするもの。<季 冬>。「―を敷く」―むし[布団蒸し]人を布団で包みおさえて苦しめること。

 

かけ‐ぶとん[掛蒲団・掛布団]

寝るときに、上にかける蒲団。かけぶすま。<季 冬>。↔敷蒲団

 

実家にあった広辞苑を引っ張り出してきた。最新ではないが、布団に関する常識が10年やそこらで変わるとは思えないので十分だろう。広辞苑でも布団を「掛ける」という表現が使われている。「掛ける」という動詞がより一般的であるということだろうか。納得できない。

 

服部嵐雪の句

嵐雪の句に

蒲団着て寝たる姿や東山

というものがある。

 

京都の東山連峰の風景を詠んだ句であるが、ここでは蒲団を「着る」と表現されている。服部嵐雪は江戸時代の俳諧師で、生まれは江戸または淡路とされている。

もしかすると江戸時代では布団は「着る」と表現することが一般的だったのかもしれない。または、江戸や淡路の方言だったのかもしれない。

 

ここからはソースがないので、解釈が正しいのか判断ができない。本来こういう考察をする場合はしっかりと下調べするべきなのであろうが、私の妄想だと思って軽く読んでほしい。

私は布団を体の上に乗せることを表現する動詞がほかにもある中で嵐雪があえて「着る」を選択したのではないかと考える。

この句を現代語訳すると、「布団を着て寝ている(人の)姿のように見える、京都の東山連峰は。」という感じだろうか。古文を勉強していた時期からだいぶ時間が経つので自信がない。嵐雪が「蒲団掛け」とせずあえて「蒲団着て」と表現したのは東山が能動的に布団を着ている様子を表現したかったからではないか。「蒲団掛け」だと神のような存在が山に布団を掛けているような印象を受け、句に受ける印象が「山」と「山に布団を掛ける存在」に分散される。そこに他者の存在を匂わせることなく山の存在を強調するためにあえて「着て」という能動的な表現を用いたのではないか。

 

つまり、布団を上に乗せることを能動的に表現する場合には「着る」という動詞を使うべきなのである。(?)

 

終わりに

布団を「着る」という表現に疑問を感じたので調べてみたのだが、どうも他の表現に納得がいかなかったので最後には江戸時代の句を持ち出して「着る」という表現を押し通してみようとした。私は掛け布団を能動的に使う際にふさわしい動詞は「着る」だと信じて疑わない。

余談ですが、もし言語系?の学生で卒業研究に困った方は布団に関する動詞の方言について分布を調べてみてはいかがでしょうか。私、気になります!

 

[追記]

そういえばこういうのあるよね。